失われたコーヒー、まだ誰もその価値を見出していないコーヒーを探し求めて旅してきた。
いつしか人は僕をコーヒーハンターと呼ぶようになった...

コーヒー探訪記

2008年8月1日④

コナコーヒー

1989年にジャマイカからハワイ島に転勤して、僕が開発した農園を訪れた。いろいろなことがあった思い出の多い農園だ。

接木で甦ったコーヒー畑

19世紀にブラジルから運ばれてホノルルに植えられた最初のコーヒーは、アラビカ種ティピカ亜種だったが、これを地元の人々はハワイアンと呼び、その数十年後にキリスト教宣教師によってグアテマラから紹介された品種をグアテマランと呼んでいる。どちらも同じティピカ亜種だから、区別の付けようがなくて最初は戸惑った。しかし地元の人達と話して行くうちに、何をもってハワイアンとグアテマランと区別しているのかがわかった。古くて太い幹の樹をハワイアンと呼び、比較的新しい樹をグアテマランと言っているのだ。

最近ではそんな呼び方をする古くからの地元の生産者はいなくなってしまい、アメリカ本土から投資目的やコーヒー園付きの別荘が目的のオーナーが増えて、ティピカという植物学的な呼び名が当たり前になってしまった。

右も左もわからないジャマイカから来た田舎者の僕に、親切に農機具屋や肥料の販売所を教えてくれた心優しいお爺ちゃんお婆ちゃん達は、もうほとんど鬼籍に入ってしまった。

当時のコナコーヒーの生産者は、ほとんどが地元出身者だったが、老齢化で後継者がいない農家は、農業をやめてしまった。アメリカの税制で、別荘地に別荘を持つよりコーヒー園を買って敷地内に家を建てた方が節税になる。その目的で、本土からのにわかコーヒー園主が急増した。

太平洋の孤島で周囲にコーヒー生産地がないハワイには、世界中に感染したさび病もないし、実を食べてしまう恐ろしい虫である「ベリーボアラー」もいない。しかしコーヒーにとってもう一つの脅威である、コーヒーの樹の根に付く「線虫」はいる。それもかなり強烈な線虫だ。

線虫用の農薬は毒性が強いのでハワイ州では使用を許可していない。しかし何もしないでいると、コーヒーはどんどん弱くなり枯れてしまう。

グアテマラでは、以前から線虫対策にカネホラ種ロブスタを使って対応している。つまり、ロブスタは線虫に対抗性があるので、苗の時点でアラビカ種と接ぎ木をして育ててから農園に植える。すると根は、線虫に強いロブスタで上部はアラビカ種の実を付けるコーヒー樹になる。しかし、コナの線虫は手強いコナヘンシスという種類で、さすがのロブスタも負けてしまうのだ。そこでコナでは、リベリカ種ディベリエ亜種を台木として使い、ティピカ亜種を接ぎ穂として接ぎ木をする。

グアテマラのように労賃が安い所では良いが、コナのように人件費が高い生産地での接ぎ木作業はコストが大変だ。しかし劇薬を使う事を考えると、農園で働く労働者にとってもその生産物とっても、また安全性にも良いことだ。

農園内の一度は線虫で全滅したセクションも、現在では順調に育っているのを見て安心した。

また17年前に植えたライチの木がどうなっているか気になって見に行った。UCCの創業者で当時の会長が、農園を訪れた人にコーヒーの樹ばかりを見せるのではなく、折角常夏のハワイに来たのだから熱帯のフルーツを植えて、歓迎してあげようといろいろなフルーツを植えたのだ。

ライチ

そのライチの木もずいぶん大きくなっていた。ちょうど盛りを過ぎた頃だったが、まだ実が少し残っていてさっそくもいで食べた。やはり木で熟したライチは格別おいしかった。

農園からの帰りに、3年前に亡くなった日系二世のツルヨお婆ちゃんの仏前にお線香をあげるため、近くのキムラストアーに寄った。ハワイ特産のラウハラで有名なキムラストアーの名物お婆ちゃんには本当にお世話になった。ラウハラとは、パンダナス(日本名タコノキ)の葉を干したものを編んでつくる帽子やカゴなのだが、手間が掛かる仕事なのでこれを作る店もハワイでは少なくなっている。キムラストアーは、ツルヨお婆ちゃんが何十年も前に商売を始めて、丁寧な仕事で有名になったが、元々は移住初代がよろず屋を開いて成功し、コーヒー農家からコーヒーチェリーを買う仲買商もしていた。ハワイ駐在時代、たまたま昼時に店に寄った時に、この辺りは食堂も無いから昼を食べてないだろうと言われてお昼を御馳走になった。お婆ちゃんに昔のコーヒー移住者の話を聞きながら食べるハワイ風日本食はとても美味しかった。それからほとんど毎日のようにキムラストアーでお昼を食べるようになり、行かないとお昼ができているよと電話が掛かって来た。

お線香をあげて帰ろうとすると娘のアルフリータが、《良く来てくれた。昔のようにお昼を食べて行きなさい。》と言って用意してくれた。少し早いお昼だったが、懐かしいキムラ家の味だった。

キムラストアー

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